2026.06.30
未来を見据え、ファンとのつながりをより大切に。博物館明治村がファンベースカンパニーと歩んだ2年間
博物館 明治村
小野木脩さん・林本みづきさん
- ファンベース伴走
愛知県犬山市にある野外博物館『博物館 明治村(以下、明治村)』は、重要文化財を含む明治時代の建築物を移築・保存し、まるで明治時代へタイムトリップしたような体験ができる人気の観光スポットです。
近年では、謎解きイベントや体験型アクティビティなども人気を集め、幅広い層が訪れる“体験型の博物館”として親しまれています。
その裏側には、日本の近代を築いた人々の想いと努力の結晶を未来への指針として残し続けたいという、開村以来変わらぬ想いがあります。
明治村では、これからの未来を見据え、2024年よりファンベースの取り組みを開始しました。ファン集会の開催をはじめ、ファンから寄せられたアイデアをもとにした記念品の制作など、ファンとのつながりを大切にした活動を継続。始動からの約2年間、ファンベースカンパニーは伴走支援という形で関わらせていただきました。
明治村がファンベースに本格的に取り組むことを決めた背景とは何か。そして、その取り組みを通じて、どのような変化や気づきが生まれたのか。明治村でファンベースの取り組みを推進する小野木脩さん、林本みづきさんにお話をうかがいました。聞き手は、ファンベースカンパニーの宮下菜穂子です。
※所属・肩書は取材当時のものです
ファンが教えてくれた、明治村の多彩な魅力

林本さん:明治村では以前から、ファンの存在を意識していました。毎朝朝礼をする際に行動指針を唱和するんですが、その中にも「明治村ファンを獲得する」という言葉が掲げられているくらいなんです。
明治村には「明治村住民登録」というお得な年間パスポートがあり、年に何度も足を運んでくださるお客さまもいらっしゃいます。そのため、ファンと呼べるような方々がいらっしゃることは感じていました。ただ、実際のところ、具体的に「どんな人たちが明治村のファンなのか」ということは、恐らく誰も明確に定義できていなかったんですよね。
そうした中で、中長期的な経営計画を立てるタイミングで、「ファンベース」という考えを取り入れていくべきなのではという話になったんです。明治村では、明治時代の建造物をはじめとした文化財を未来に残していくために、寄付を随時募集しています。その寄付を増やすといった意味でも、明治村を継続的に応援してくださる方々との関係を大切にしたいという想いもありました。


小野木さん:また、現実的な話でいうと、コロナ禍以降、来場者数がコロナ前に戻っておらず、どうやってお客さまを増やしていくかという課題にも直面していました。長期的な目線で考えても、何度も足を運んでくださったり、周囲に明治村を紹介してくださるようなファンの方々をいかに増やしていくかは、やはり重要なテーマです。
明治村は博物館でありながら、テーマパークとして捉えられているところもあり、謎解きも人気コンテンツになっています。それだけに、ファンの方々が明治村の何を魅力に感じてくださっているのかを、我々としても深く理解する必要があると感じていました。

FBC宮下:そこで、まずファンの方々に直接お話を伺う機会をつくろうと、2024年3月に初となるファン集会を実施されましたね。

林本さん:はい。実際にファンの方々にお話を伺うと、「明治村の雰囲気が好き」という声の中にも、いろんな要素が含まれていることがわかりました。村内にある花や木が好きとか、ゆったりと流れる時間が好きとか、のんびり過ごせる空気感が好きとか。そういった声を聞けたのはとても新鮮でしたね。
また、お気に入りのポイントを伺うと、私たちスタッフ側が思いもしなかった箇所をあげる方も多くいらっしゃいました。そして、その魅力を語っていただくと、自分たちにはなかった視点に気づかされることも多くて。これぞファンの方々ならではの目線だと感じ、それもすごく大きな発見でした。

ファンの声をもとに、想いを込めた記念品を制作

FBC宮下:その後、ファンの方々の声をもとに、住民登録を継続してくださった方に贈る記念品『まもるいし』(現在は配布終了)の開発も行われました。こちらの企画は、どのように立ち上がったのでしょうか?

小野木さん:そもそもの経緯からお話すると、2024年の春に住民登録票をデジタル化したんですね。それまでは、住民登録の証である住民登録票をカードとしてお渡ししていたんですけれど、それがスマホに表示されるようになりました。また、そのタイミングで入場料金を改訂して、住民登録の料金も値上げさせていただきました。
こうした変更によって、継続登録いただく方が想定以上に減ってしまったんです。「このままでは、これまでせっかく明治村を楽しみにお越しいただいた方々を失ってしまう」という危機感を覚えました。
そうした経緯があり、継続登録いただいた方への感謝の印として、何かお渡しできるものを作れないかという企画が立ち上がりました。そして、「ファンがもらって嬉しい記念品でありたい」という想いから、ファンの方々からアイデアを募集したいと思ったんですね。


林本さん:2024年3月に実施したファン集会に参加された方々とは、オープンチャットで交流を続けていました。ファンの皆さんは明治村に足を運ぶことを明治村に「帰る」と表現してくださって、「今、帰村しています!」みたいに、来村いただいたことをチャットで報告してくださるんですよ。
そうしたオンラインでのつながりが緩やかに続くなかで、またリアルでも集まれる機会をつくりたいと思っていたところで。「であれば、記念品のアイデアをファンの皆さんに聞いてみよう」と考えたんです。それで、2024年12月に改めてファン集会を開催し、そこで様々なアイデアをお寄せいただきました。
その中でも、特に参加者の方々からの支持が高かったのが、「明治村の建造物の解体材や廃材をアイテムとしてほしい」というお声でした。また、明治村との縁が感じられるようなお守りのようなアイテムがほしいというアイデアもいただいて。その二つのアイデアを組み合わせて生まれたのが『まもるいし』になります。


FBC宮下:この『まもるいし』には、色々な意味が込められているそうですね。

林本さん:はい。『まもるいし』の中には大谷石のカケラが入っています。この大谷石は帝国ホテル中央玄関の移築・復原の際に使用を検討されたものの、結局は採用されずに明治村で長年保管されてきたものです。この大谷石に再び光をあてながら、ファンの皆さんに明治村をいつでも身近に感じてもらいたいという想いで制作しました。
この『まもるいし』という言葉には、大谷「石」を封入したお「守り」風の袋であることに加えて、明治の価値を「護る」という「意志」、の二つの意味が込められています。この記念品を手にしてくださった方々に向けて、「明治村の価値を未来に繋げていく仲間に加わっていただきたい」という想いも込めさせていただきました。

想いが届いた実感と、じわじわ広がる社内の変化

FBC宮下:『まもるいし』の配布は期間限定でしたが、配布期間中の登録数が前年の4倍になるなど、事業的にも大きなインパクトがあったとお聞きしました。

林本さん:そうですね。ファンの方々と一緒に考えた企画が、数字としてもしっかり結果に表れたことは嬉しかったです。ただ、数字以上に大きかったのは、『まもるいし』をお渡ししたことで、明治村の想いに共感してくださる方々の輪が、着実に広がっているという実感を得られたことでした。
まもるいしを受け取っていただいた方々へのアンケートには、「『まもるいし』から、明治の建造物を後世に受け継ぐ思いが感じられて嬉しい」「これからも『まもるいし』と共に、明治の価値を残す活動に積極的に参加します」といった声が寄せられていて。自分たちの想いが届いていると感じて、思わず泣きそうになってしまいました。
そうした声を受けて、改めて自分たちの仕事に誇りをもてるようになりましたし、ファンの方々と一緒に未来を築いていきたいという気持ちがより強くなりました。


FBC宮下:こうした取り組みを経て、ファンベースの活動によって、社内に変化が生まれている感覚はありますか?

小野木さん:はっきり変わったと言えるかというと、正直まだまだだとは思っています。ただ、先日、とある社内研修で「明治村の将来を見据えた際、この先何が重要になっていくと思うか」というアンケートがあったんですが、多くの職員が「ファンとの関わり」を挙げていたんです。その結果を見て、社内の意識が少しずつ変わってきていることを感じました。
また、ファンの方々との向き合い方についても、意識の変化を感じています。例えば、『まもるいし』に使った大谷石は、長年使われずにお蔵入りしていたものでした。ですが、ファンの方々にとっては価値を感じていただける対象となっている。そのギャップに気づけたのも大きかったです。
ファンの方々を大切にするというと、何か特別なことをしなければいけないように感じてしまいがちですが、そうではなくて。普段自分たちが当たり前に行っている日々の業務、例えば建物の掃除、お客さまへのあいさつやゴミ拾いのようなことの積み重ねこそがファンの方が愛する「いつもの明治村」を作っている。そうした気づきから、色々な部署でアイデアが出てくるようになった感覚はあります。
ファンベースへの理解が浸透し、様々な部署がファンベースのアプローチを自然と活動の中に取り入れていってくれる。そんな期待を抱いています。
迷ったときに背中を押してくれる存在がいる心強さ

FBC宮下:2024年3月に開催したファン集会にはじまり、ファンベースカンパニーでは約2年間にわたって伴走支援を続けさせていただきました。ファンベースカンパニーの伴走支援に、おふたりはどのような価値を感じていらっしゃいましたか?

林本さん:まず、ファンベースの取り組みを進めていくうえで、外部からの客観的な視点があることの心強さは、本当に大きかったですね。ファンコミュニケーション担当という部署ができてまだ日が浅く、自分たちだけで推し進めていくには限界もあって。そういうときに、力強く後押ししてくれる存在がいてくれたことは、とても助かりました。
特に記憶に残っているのは、施策の方向性に悩んでいたとき、「ファン集会でお会いした〇〇さんが喜びそうなことをやればいいですよ」と言っていただいたことです。難しく考えすぎていたなと気づかされました。「ファン」という言葉で広く考えすぎず、実際にお会いした方の顔を思い浮かべながら動く。その感覚は今でも大切にしていることです。
また、具体的な施策への細かいアドバイスも大変ありがたかったです。例えば、昨年の夏に開催した「竹灯ワークショップ」でも、ファンの方々により楽しんでいただけるようにと、様々なアドバイスをいただきました。
募集時のアンケートで「明治村の好きなところ」を聞く質問を盛り込んだり、当日の会場に集まった声を掲示したり。参加者同士が交流しやすくなるような場づくりのヒントもいただいて、おかげで当日はスタッフと参加者との会話も弾み、たくさんの声を聞くことができました。


小野木さん:私が感じているのは、「これでいいんだ」と思わせてくれる存在としての価値ですね。ファンベースの取り組みは、数字にすぐ表れるものではないですし、正解もなかなか見えづらい。そういうなかで、他社事例を紹介いただいたり、「今の取り組みはちゃんと進んでいますよ」と背中を押していただいたことが、前に進む力になっていました。
自分たちだけでやっていると、どうしても「本当にこの方向で合っているのか」と不安になる瞬間があるんですよね。そのときに、客観的な視点から「それでいいんです」と言ってもらえる。その一言が、思っている以上に大きかったなと感じています。
明治村を次世代に残すべく、ファンとともに歩んでいく

FBC宮下:今回はたくさんのお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、これからのファンベースの取り組みについて、抱負をお聞かせいただけますか?

小野木さん:明治村は今年で開村61年を迎えます。「明治が懐かしい」という感覚で足を運んでくださる方は、もうほとんどいない時代になりました。そうした中で明治村の価値をどう伝え、次の世代に残していくか。それを考えた時、ファンの方々の存在はますます大きくなると感じています。
ファンの方々は、私たち自身がまだ気づいていない明治村の魅力を、たくさん感じてくださっています。そうした声に耳を傾けながら、自分たちの魅力を磨き直し、より多くの方に伝えていく。そのサイクルをこれからも大切にしていきたいと思っています。

林本さん:私が大切にしていきたいのは、ファンの方々との距離感です。ファンの方々が明治村に足を運ぶことを「帰村」と呼び、「ただいま」と言ってくださるように、明治村をふるさとのように感じてくださっている方々がいる。そういう関係性は、なかなか他にはないものだと思っています。
その温かいつながりを守りながら、ファンの方々と一緒に、明治時代の人々の想いを未来へつないでいきたい。スタッフだけでなく、ファンの方々も仲間として一緒に歩んでいける。そんな未来をつくっていきたいと思っています。

インタビューをした人

Profile宮下 菜穂子ファンベースプランナー
PR会社を経て、2020年9月ファンベースカンパニーに入社。プランナー業務のほか広報部や講座・コミュニティ運営も担当。ファンベース×PR×コミュニティを自社で実践し言行一致の状態で「イイトコロ」をさらに伸ばすため一緒に伴走できるファンベースプランナーを目指しています!たまに親子ワーケーションします。



FBC宮下:はじめに、これまでの取り組みを振り返っていきたいのですが、そもそもファンベースに関心をもたれたきっかけは何だったのでしょうか?